Teoriaは、ギリシア語で「観想、観照」のこと。
 知る喜び 色の楽しみ
 縦糸と横糸が出会い 新たな布が生まれる驚き
京都の小さな文化サロンで、  Teoriaの時間をお楽しみ下さい。

シュトレンにあらず


今年もシュトレンの季節到来!
また衝動買いしてしまいました。これは成城石井に並んでいたもの。ドイツではスーパーなどに山積みにされていたりするタイプのものですね。
それにしても、日本でも、手作りシュトレンを並べるケーキ屋さんパン屋さんが実に増えました。
ちなみにイタリアではこのシーズンのケーキはパネトーネ、パンドーロですね。ミュンヘンはシュトレン一色、アルプス超えるとパネトーネ一色。今の日本のデパ地下ならその両方が並んでいる。一体ここは何処なんだ?(笑)
しかし…、シュトレン、いずれもお高いですね〜(泣)。2000円超えもざらです。しかもこれが必ずしもイメージどおりのお味ではない。納得できません。
美味しいのですよ。
美味しいのですが…、
美味しすぎて、
違う!
(たとえばこれは某有名パン屋さんのシュトーレン2種。左上に見える脇役バナナは話とは無関係なので気にしないで下さい。)
これは…、
シュトレン風のパン、であって、シュトレンじゃあない。シュトレンとは似て非なる別物であります。まず、生地がやわらかすぎる。味も香りもあっさりと単純すぎる。本場のシュトレンは、5㎜〜せいぜい1㎝ほどの薄いスライスにして、少しずつ頂き、ちょうどクリスマスの頃になくなる、というものです。つまり一度に5㎜〜1㎝で十分満足、という重厚濃厚な味わいのもの。ところが、日本のシュトレンは美味しすぎて一度に5㎝だって7㎝だって普通に食べることが出来てしまう!これではラージサイズでもクリスマスまでもちません。CPが悪すぎる。全体に、賞味期限もドイツのものほど長くないようですね。とにかく、これはシュトレンもどきでしかない。
日本のシュトレンもどきは美味しすぎる、などと書くと、ではドイツのシュトレンは不味いのか、ということになりますが、味覚というものはそう単純なものではないと思うのです。ぱっと食べて美味しいものもあれば、最初の一口ではわからないけれど、かめばかむほど味が出る、あるいは、その時は特になんとも感じなかったのに、記憶に刻まれ、長い年月を超えて又どうしても味わいたくなる、そういう類のものってありますよね。
ドイツのものは後者タイプが圧倒的に多いように思うのです。


例えば、やはりこの季節を代表するドイツのお菓子にレープクーヒェンという、スパイスや蜂蜜のたっぷり入ったソフトクッキーがあります。待降節のころになるとニュルンベルクのレープクーヒェンの仮設ショップがあちこちにたちます。可愛い缶につめてプレゼントにするのがお決まりのスタイル。アイシングがかかっていて、これも当然日持ちするお菓子です。この缶が又いろいろ種類があって素敵。
しかしこのクッキー、正直、初めて口にしたときには、日本の繊細なお菓子に慣れた口には「なんと粗野な味だろう」と感じざるをえなかったんですね。
ところが、この季節になると、これが無性に食べたくなる。(残念ながら、シュトレン、パネトーネが並ぶデパ地下にも、成城石井にも、まだレーブクーヒェンはお目見えしていないようです。バイヤーさんも躊躇したか?)


シュトレンに戻ります。
どうも日本のシュトレンは別物である。それなら自作せよ、と、毎年思いつつも、シュトレンばかりは仕込みに時間がかかるため(ドライフルーツを漬け込むのに最低一か月は欲しいし、シュトレンそのものもねかせる必要があります。ので、結局)、この時期に間に合わうように準備することが出来ずに現在に至っております。


初めてシュトレンに出会ったのは、やはり上海時代。
1980年代当時、もちろん日本でシュトレンなんて普通に売ってもいなかったし、そもそもその名も存在すらも私は全く知りませんでした。当時の私には、ケーキと言えば生クリームでおおわれたやわらかいスポンジに果物などがあしらわれたもの、というイメージしかありませんでした。クリスマスものとしても、せいぜいがブッシュ・ド・ノエルどまり。ですから、ドイツ人留学生が幸福そうに
「ドイツからクリスマスケーキが届いた。一緒に食べよう」
と誘ってくれたものの、当時は、ドイツから空輸可能なケーキが、一体いかなるしろものなのか、想像もつかず、「えっ」と一瞬絶句したのを記憶しています。
(彼が、仲間内では味覚音痴として有名だったことも、私のこの反応の背景にありました。よくフランス人やイタリア人が味覚音痴として馬鹿にする英米人と双璧をなしていましたから。)思わず、
「それ、大丈夫なの?」
無礼にもまず尋ねてしまったのを覚えています。「だ、大丈夫だと思うよ」と不安そうに彼。「これ、焼き立てを食べるケーキじゃなくて、一か月くらいねかせると美味しくなるんだ」と聞いて初めて、「あ、そうなんだ」と、ここでようやくバターケーキ系のものであることを把握し安堵。しかし、彼がおもむろに取り出した「ケーキ」を目の当たりにし、…そこであらためてドン引きです。初めて目にする色形。どう見てもパウンドケーキの類ではありません。言語学おたくの彼は、確かそこで「クリストシュトレン」の名の謂れを解説してくれたと思うのですが、私の記憶の中では嬉しそうにそっとその包みを―おさなごキリストのおくるみを抱くように―手にした彼の姿のみが印象に残っています。そして試しにそれを受け取ってみて、さらに驚愕。
っ。そして、
い…。
アガサ・クリスティなら、さしずめ『シュトレン殺人事件』の中で凶器の鈍器として使うであろう、重さ、かたさであります。(日本の軟弱なシュトレンでは到底人は殺せまい。)そして、その味も、香りも、期待にたがわず、重厚かつ複雑難解です。
確かにとっつきは悪いかもしれない。けれど、かめばかむほど味が出る。そして忘れられない印象を刻む。季節が回るごとにその記憶は蘇り、再会への欲望を無性にかきたてる…。


これがドイツだ!


というわけで、意中のシュトレンとの邂逅を期待して、つい又衝動買いをしてしまう12月なのです。(もの要りな時期に実に困った出費です。)成城石井のドイツ製シュトレンは1250円。日本の手作りシュトレンより割安?)


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